テレコムアプリの実装の特徴と監視方法③ 〜交換機&Cloud Native編〜

基地局編EM編の続きである。

交換機

電話交換機とは電話が繋がる仕組、VoiceのPBXの主要メーカー4社比較を見て頂くと、交換機の基本的な役割が分かるだろう。

装置構成

交換機はモバイルに求められる要件に応じて、アーキテクチャが大きく変わってきている。論理エンティティとしての機能分担は3GPPの仕様を確認頂くとして、ここでは監視の観点で主な機能部の種類を紹介する。

  • 加入者DB: UE(端末)や契約者の顧客情報に関するネットワーク上のマスターとなるDB
    • サービス加入状況等の契約情報、UEの認証情報やデバイス情報、位置情報
    • 4GまではHSS、5G以降はUDM/UDR
  • マルチメディアサービス: 交換処理の上で契約情報に基づいてテレコムサービスを提供するApplication群
    • 基本呼制御、QoS制御、トーン/アナウンス、音声通話、留守番電話
    • 3GまではMSC内だったが、交換機のIP化の頃からIMS
  • 他網接続: 他網へ接続し各種プロトコルを終端
    • 固定網(PSTN/ISDN)、インターネット(PDN)、他モバイル網(PLMN)
  • 交換処理: 交換機としてUEからの通信の接続先を切り替える中心処理
    • 3GはMSC
    • IP化に伴ってパケット交換処理部はGSN
    • 4GではEPC
    • 5GではU-PlaneをUPF、C-Planeを5GCの他の論理機能部が担当
  • 無線通信の終端: 無線からの信号を受けて無線通信を終端

従来のUE〜UEを擬似的な専用線で接続する“回線交換“から、徐々にインターネットへ通信するためのパケット転送に最適化された機能部に変化している。特に5Gでは、C-PlaneとU-Planeを分離することで、大容量のデータトラヒックに耐えられる思想になっているようだ。

監視方法

『スマートフォン時代の大容量通信を支える新3Gコアネットワークパケット処理ノードの開発』(NTT DOCOMO Technical Journal)や『NECのUPF』を見る限り、交換機の実装は、U-Plane系の処理(U-Plane processor)はRouterに近い実装となっており、O&M機能部やC-Plane系(Protocol termination)はIT系の実装に近い実装となっていることが多いようだ。

一般的なIT系技術の実装と異なる点は、DBと処理ロジック部が分離されているわけではなく、接続の維持のために各コンポーネントがデータを保持している点だろう。そのため、一般的に各処理部はAct-Sby構成になっており、Act-Sby間でデータの同期やHearbeatを行なっている。

O&M機能部は『テレコムアプリの実装の特徴と監視方法②〜EM編〜』の通り各U-Plane processor、Protocol termination、LBの障害管理(Fault mgmt)、トラヒック管理(Performance mgmt)、課金情報の出力(Accounting mgmt)を行なっている。また、O&M機能部はEMから指定された接続先情報やネットワーク情報の設定を管理設定(Config mgmt)も行なっている。

Cloud Native時代に向けた監視の課題

従来の交換機は、物理的なラックのようにStaticな構成だったため、O&M機能部を中心としたStatic Configurationをベースにした監視運用方法が主だったように見える。しかし、Cloud Native時代になると仮想化基盤(NFV-MANOやNFVI)が動的にコンポーネントを起動したりネットワークトポロジーを変えてしまうため、Dynamic Configurationになる。この結果、監視のポイントや手法も大きく異なることになる。

Dynamic Configurationになることで、監視上の課題としては

  • “正しい”Configurationが分からない
    • 仮想化基盤が勝手にNF(Network Function)を起動/停止するため、どのNFが起動/停止しているのが正解か不明
    • どのNF同士が接続されるかの正解が不明
    • 冗長構成としての設備がどれか分からないので、冗長設備が機能しているか不明
  • 共有コンポーネント(PaaS/CaaS/NW設備等)の監視方法と責任分担のベストプラクティスが未成熟
    • ServiceMeshやLBのRouting情報の管理を担当する装置が不明
    • 問題発生時の切り分け方法が不明
    • そもそもPaaS/CaaSの監視方法が標準上も未成熟
  • ネットワーク全体の性能や能力が不明
    • Scale前提のため、ボトルネック箇所がどこか不明
    • NFが動的変更になると、“今“どんなKPIを監視すれば良いのか不明
    • 障害発生後の復旧時にどうやって再度組み込むのかベストプラクティスが未成熟

(参考)実装例



最近の交換機は、従来の回線交換型の交換機から、IT系装置と似たような実装になってきている。そのため、監視方法もIT系の機能を今後利用できるようになっていくだろう。しかし、総務省『論点整理』のとおり監視を行うのは人なので、複数世代のネットワークを監視運用できる人材の確保は今後大きな課題になるかもしれない。

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