Sliceを管理するために必要な管理機能部
5Gは大容量・低遅延・多デバイスという性能的な特徴の他に、目玉機能としてNetwork Slicingがある。しかし、Network Slicingが何者か、どのように機能分担が変わるのかの全容は今ひとつはっきりしない。総務省の『Network Slicingとは?』や3GPP TS28シリーズ(OAM系)、ETSI ZSM ISG (特にETSI GS ZSM 003) を中心にNetwork Slicingとその管理機能を読み解いてみたい。
Network Slicingとは何か?
本質的には、Software Defined Data Centerのように、インフラを何らかの技術(仮想化やVLAN+QoS等のIsolation technology)によって複数のネットワークに分割することだと思う。そのUsecaseとしてあげられている事は
- SLAの違いによってネットワークを分離
- 大容量 or 低遅延 or 高信頼性などの違いが挙げられている
- 特定用途のためのLocal Area Network (Local 5G)
- 工事現場の機器の制御、Becon等の自動車や道路情報のネットワーク、工場内の機器の制御、電車等の制御があるようだ
- 日本政策投資銀行『5G/ローカル5Gレポート』に世界の5GのUsecaseがまとめられている
- 複数オペレータによるインフラの共有
- 特に基地局やBackboneのNWが候補のようだ
Network Slicingの管理機能部
詳細はETSI GS ZSM 003の5章&6章をご確認頂きたいが、E2E Service Management Domainと各DomainのManagement Domainにより構成される。ZSMのドキュメントやNokiaの事例を踏まえても、典型的なDomainの分割例としては、基地局(NF)などのRadio Area Network (RAN)、BackboneなどのTransport Network (TN)、交換機(NF)などのCore Network (CN)、Data CenterなどのNFVとして分割されることが多そうだ。
Network Slicingの実現に向けては、これら各ドメインをNetwork Slice Selection Assistant Information (NSSAI)とそれを構成するSingle NSSAI (S-NSSAI)によって連携することで、一つのNetwork Slicingを作成・管理することになる。Sliceの管理にあたっては、主に4つの運用が定義されている。
- ProvisioningまたはConfiguration Management (CM): Network Functionやネットワークの
- Lifecycle Management (LCM): テンプレート+設計情報を利用して、作成(Instantiate)〜更新(Heal/Scale/Update)〜削除(Terminate)を実施
- Fault Management (FM): Alarmなどの障害管理
- Performance Management (PM): リソースの使用率が各モバイルプロトコルの利用量などの性能管理
3GPP-SA5のTS 28.5xxを確認すると、5Gにおいては管理機能部がService Based Architecture (SBA)となっているため、各機能は“Service“として定義され、各Serviceと接続する場合はService Based Interface (SBI)を利用して接続するように規定されている。各ServiceのSetとして、3GPP-SA5では3つの機能ブロックを参考情報(Informative)として記載している。
- Network Slice Management Function (NSMF): Slice管理機能
- NSSAIや設計情報(Provisioning)を管理している
- ZSMのE2E Service Management Domainが相当すると思われる
- Network Slice Subnet Management Function (NSSMF): Sliceを構成するSlice Subnetの管理機能
- S-NSSAIを管理しつつ、NFV-MANOを利用して仮想リソースの制御を行う。
- ZSMのManagement Domainが相当すると思われる。
- 4GまでのNM (Network Management)やOSS (Operation Support System)相当の機能と思われる。
- Network Function Management Function (NFMF): Network Function (NF)管理機能
- 各NFのFMやPMを直接管理する
- ZSMではManagement Domain内の一機能
- 4GまでのEM (Element Manager)相当の機能と思われる。
これらをふまえて、RANの場合の構成と利用が想定されるインタフェース(IF)はこのようになるだろう。
OAM機能 | SBI | NSMF -> NSSMF | NSSMF -> NFMF | NFMF -> NF | NSSMF -> NFV-MANO |
---|---|---|---|---|---|
LCM/CM | Provisionig Service (TS 28.532) ※ | NSI mgmt (TS 28.531) | NSSI mgmt (TS 28.531) | NS mgmt (TS 28.526/527/528) | |
FM | Fault Supervision Service (TS 28.532) ※ | NSI Alarm (TS 28.545) | NSSI Alarm (TS 28.545) | NF Alarm (TS 28.545) | VNF FM (TS 28.516/517/518) |
PM | Performance assurance mgmt Service (TS 28.532) ※ | NSI PM (TS 28.550) | NSSI PM (TS 28.550) | NF PM (TS 28.550) | VNF PM (TS 28.521/522/523) |
Slice KPI (TS 28.554) | Traffic Item (TS 28.552) | ||||
Test | Heartbeat Service (TS 28.532) | Trace control (TS 32.421/422) | |||
Information | File data Reporting Service (TS 28.532) |
5Gの管理機能部の特徴とO-RAN SMO
5Gになると、基本的にはCloudでの運用のように、NFのインスタンスを作成・削除(LCM)し、NFMFは基本的にPMやFMなどの監視情報を吸い上げるだけの構成をイメージしているようにも見える。しかし、Integration Reference PointsとしてEM相当の機能であるState管理やConfig管理も使えるOptionは残っている。また、SBAの厄介なところは、3GPPの仕様としてはどの機能も全てのサービスを利用可能というところだろう。言い換えれば、実装しているサービスの製品の組み合わせとしては無数に存在するし、いくつかのサービスはNFが直接実装しているかもしれない。そのため、実際にSliceを管理する機能部を実現するための製品の組み合わせは無数に存在するかもしれない。
また、O-RAN WG10では、RANのSlicingに向けたSlicing管理機能の議論も始まっているようだ。私の分析では、RAN NSSMF + NFMF + NFVO (FOCOM) + VNFM (NSO) が現在のO-RAN SMOが仕様化したい範囲だと考えられる。しかしながら、NFMFとvRANのIFのはずのO1が、VESだけではなくTS 28シリーズを参照している点は理解に苦しむ。O1のScopeである旧EM〜 NF間IFはこれまで標準仕様化されたことがないが、今後O1は大幅に拡張され、旧EM〜NF間のIFの詳細も決まっていくのだろうか?
スライシングについて理解が進みました。ありがとうございます。
返信削除>実際にSliceを管理する機能部を実現するための製品の組み合わせは無数に存在するかもしれない。
のですね。
コメントありがとうございます。
返信削除『REST指向での標準仕様設計方法』でも記載していますが、FlexibilityとInteroperabilityはトレードオフになることがおおいため、3GPP-SA5 28.5xx シリーズのようなSBAの仕様ですとFlexibilityが強する気がします。その結果、実装オプションとその組み合わせは様々なバリエーションが生じてしまうかと感じています。