何故O-RANで基地局のコンテナ化が騒がれているのか?

 O-RANの次回会合が2022年2月となり、前回O-RAN virtual Face to Face June会合から期間が大分時間が経ってしまった。TelecomTVの報道によると、O-RANに参加している数企業がアメリカのEntity  List(アメリカの安全保障の観点で取引禁止としている企業リスト)に追加されたことで主要参加企業(Nokia等)がアメリカ政府からのペナルティを恐れてO-RANの活動を停止し、その結果O-RANとしても2021年9月の会合をキャンセルとしていたようだ。virtual Face to Faceはキャンセルになったものの、この半年以上で様々な検討が進んだ。その中の一つに、基地局のコンテナ化がある。

基地局をコンテナ化するとは?

テレコムアプリの実装の特徴と監視方法①の通り、基地局は大きく分けると、アンテナ、リモート装置、Base Band処理装置、呼処理制御装置と、それらを繋ぐネットワーク機器の5つに大別されるだろう。特に5GはO-RANによって、O-RU 〜 O-DU 〜 O-CUの3つの機能部に分離され、O-RU=アンテナ+リモート装置、O-DU=Base Band処理、O-CU=呼処理制御装置になってきている。O-RANでの議論や仕様、O-RAN SCの参照実装を見る限り、現時点で仮想化のターゲットとなっているのはO-CUとO-DUとなる。特にO-CUは既にSamsungMavenirなどがVerizonやが仮想化を商用展開始めており、Telecom Italia (TIM)もLTEの仮想化などを行なっている。

無線装置を仮想化するにあたっては、そのまま4Gの処理をVM等で実現する方式と、仮想化の集約効果を向上するために機能分担を見直して再実装する方式がある。前者の場合は、基本的には基地局装置は各アンテナ配下に数台レベルの超小規模データセンタを作ることになり、D-RAN (Distributed Radio Access Network)と呼ばれることもある。後者の場合は、C-RANと呼ばれるように集約可能な機能部を集めることで比較的中規模なデータセンタを作ることになり、C-RAN (Centralized Radio Access Network)とよばれる方法と親和性が良い。

どこで処理を分割するかはこちらの資料によくまとまっている。特にアンテナ+リモート装置(RU)とBase Band処理を行うDistributed Unit (DU)をどのように分割し距離を引き伸ばすかは重要なポイントとなりO-RANではここの仕様化が行われている。

この仮想化対象の装置であるBase Band処理と呼処理制御装置を、コンテナ技術を利用して仮想化することが基地局のコンテナ化である。

基地局コンテナ化の課題

基地局を仮想化するに当たっては、現状VMを利用する方法とコンテナを利用する方法がある。基地局の場合、FECやPHYのようにアンテナでは処理しきれないL1/L2のような低レイヤの処理を行う必要がある。これらの処理は、基地局配下のユーザに対し(同時並行処理)、非常に短い時間で応答を返す(タイムセンシティブ処理)必要がある。同時並行&タイムセンシティブ処理は通常は一般的なIntelやAMDのようなチップセットを利用したKernelのスケジューリング機能とは相性が悪く(別の機会に説明予定)、通常のCPUで処理をすることは難しいと言われている。そこで、基地局の仮想化ではこれらの同時並行&タイムセンシティブ処理はHardware Acceleratorで処理することを考えられている。O-RANによるとHW AcceleartorとしてはGPUやFPGAなどが候補として上がっているようだ。もし、汎用的なサーバ(COTS)と汎用的なHW Accelerator製品で基地局を構築できれば、モバイルオペレータとしては大きなコスト削減が可能となる。

しかし、コンテナ+HW Accelerator+COTSサーバを基地局で利用する場合には大きな課題がある。これらの技術は非常に早い速度で進化しており、プロダクトのライフサイクルが非常に早い。一方で、基地局のデータセンタは広範囲に分散することになるため、頻繁にHWやSWの変更を行いにくい。

タイムセンシティブ処理を解決しつつ、小規模超分散DCを安定的に運用することこそO-RANで求められるエコシステムであろう。


専用装置である基地局を汎用サーバや部品で構築することはモバイルオペレータの夢と言って良いだろう。CU装置はVMでもコンテナでも商用レベルで実現できる事例が増えてきたが、DUについては、現状VMよりコンテナの方が実現の可能性が高いと思われているようだ。一方で、プロダクトライフサイクルを考えれば、VMのような技術を利用してなるべく基地局アプリケーションとHWを分離し運用を効率化したいと思うだろう。今後O-RANの検討や様々なPoCを通して、どのような実装方法がベストプラクティスになるかは見えてくるだろう。

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