モバイルにおけるハンドオーバーとは?オーバーレイとは?

モバイルネットワークの難しいところとして、利用者が移動することによる通信先の基地局の変更(ハンドオーバー)や、他の拠点の基地局のアンテナや3Gや4Gなどの既存設備を利用したエリアの冗長化(オーバーレイ)と言った、複雑なエリア設計がある。各接続先の装置特性によって技術特性が全く異なるため、モバイルネットワークの理解も、インフラ設計や監視の検討などが非常に難易度の高いものになっている。今回は、かなり乱暴になり、間違いも多いとは思うが、監視の観点でハンドオーバーやオーバーレイとは何かを解説してみたい。

ハンドオーバーやオーバーレイの必要性

結局モバイルNWのお仕事って何?のとおり、お客様が移動してもお客様の通信(専用トンネル=ベアラ)を維持し続けることがモバイルNWのミッションとなる。そのため、モバイルとしては“通信先の基地局が動的に変わる“ことを想定しなければいけない。新幹線や自動車で移動していたとしてもモバイル通信が継続できているように、基地局の切り替えはかなり速い速度で頻繁に変わることもありえる。

そのため、モバイル網としては、お客様の端末(UE)から通信先への仮想的な専用トンネルを複数本用意するという手法を用意している。端末UEが通信している基地局の電波が弱くなると、別の専用トンネルを利用することで専用トンネルの維持を実現している。このような利用する専用トンネルの変更がハンドオーバーである。
(なお、実際に専用トンネルをどこまで事前に作っておくかは接続先や採用している技術の世代によって異なる)

この図では、異なるアンテナや異なる基地局で3本の仮想的な専用トンネルを作っている図となる。基地局の設置と、各基地局から放出アンテナの関係は様々なパターンや制約があるが、仮想的な専用トンネルを作るためには当然同一エリアに異なる設備から放出された電波が必要となる。少し古い資料となるがセル構成技術の進展のように、これらは電波特性や周波数の衝突、世代による符号化技術、無線パラメータの一貫性等様々な制約があるが、ハンドオーバーできるようにエリアを重ねたり、信頼度を上げるために他の装置によって該当エリアをカバーするような構成(オーバーレイ)にしたりする。

赤とオレンジの切替であれば基地局と端末UE間での切替となるし、赤から青への切り替えであれば交換機と連動した切替が必要となる。または、4Gのような旧世代でエリアをカバーしている場合、5Gから4Gへの世代間変更のようなEPS Fallbackのようなものもある。1つのアンテナによって提供可能なエリア(Cell)は限られているため、これらの様々な資源や設備を最大限活用することでお客様の専用トンネル=ベアラを維持し続けなければならず、これらの例のように様々な専用トンネルの切替パターンがある。各専用トンネルの特徴や装置の繋がりによってハンドオーバーの仕組みやシーケンスは異なってくるため、ハンドオーバーはバリエーションも多く、非常に難しい技術となっている。

専用トンネルを維持&高速化するための工夫

モバイル網は複数の専用トンネル(作成するレベル間でベアラと言ったりパスと言ったりする)を作成し、それらを切り替えることでお客様端末UEが移動しても専用トンネルを維持し続ける必要があるわけだが、切替のためだけに専用トンネルを常に維持し続けることは効率的ではない。そのため、高速化の工夫が必要となる。主な工夫としては

  • 実際にリソースを消費する専用トンネルの範囲を最小限化し残りはリザーブだけにとどめる
  • 複数の専用トンネルを使い分ける or 束ねて使う(Carrier AggregationやMassive MIMO、ULとDLの分離など)
  • 複数の装置をグルーピングすることでダイナミックなルート変更を行う(グルーピング)
  • (端末を探すための)呼び出し範囲を最適化することで専用トンネルの再作成頻度を減らす(LAI単位のPagingなど)

これらを各世代や各機能部で効率化することで、モバイル網は専用トンネルを効率化しつつ、ハンドオーバーを効率的に行えるようにしている。またこの効率化のための無線パラメータの設計や収容する基地局や交換機の設計、エリアの単位はモバイルオペレータのノウハウとなっているようだ。

オーバーレイやハンドオーバーを踏まえた監視方法

これらの仕組みを踏まえると、基地局の監視ポイントは複数出てくる。5GのgNBであれば、

  • gNBを中心とした接続性の監視: Xn, X2, NG, S1,N3 × プール内の装置数
  • サービスを監視するためのセルサービス監視: Cell、オーバーレイ、Slice(?)
これらの正常性を確認するためには、様々な監視ポイントが必要となる

  • CU & DU & RUのFault監視
  • CellサービスのFault監視
  • 専用トンネルの確立のためのRRCやSCTP 等の各プロトコルのError率
  • Slice監視のためのEnd To Endの帯域やQoEなどの監視
特に、オーバーレイなどを考慮し、どのエリアをどのようなトポロジーでサービスを提供しており、どこの故障でどのようなサービスの影響があるのか(影響がないのか)が必要になるだろう。特に基地局は数が膨大な上に、保守拠点から距離が離れていることも多々あるため、なかなかすぐに直せないことも多いだろう。そうなると、今の各エリアのサービスがどれだけの影響を受けているかを可視化することが大切になるのかもしれない。

オーバーレイやハンドオーバーはモバイルの難しい技術の一つであり、3G/4G/5GやRANやCNなどの各機能部毎に大きな機能やシーケンスの差がある。一方で、各UEからの再接続が高速化されたら、もしかするとハンドオーバーは段々不要になるかもしれない。

(参考資料)

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