グローバルでチームを牽引するためには
グローバル人材に向けて必要なスキルとはや基礎情報収集においてグローバルで必要となる知識やスキルについて紹介したが、今回はグローバルでチームを牽引するケースについて考えたい。
グローバルでチームを牽引する場合も、国内同様にステークホルダーを意識し、チームのアウトプット(作業スコープ)の明確化と作業全体の可視化は非常に重要であるが、それに追加して現作業のアウトプットが次の作業やプロジェクトに連続的に続くビジョンを描き続けることがチーム内のメンバーから信頼を得るためには重要だと感じる。グローバルでチームを牽引するときのスキルセット
グローバルであろうと、チームを牽引するためにはステークホルダー(お客様や依頼元、チーム内、幹部などの意思決定組織、自チームの作業の周辺作業のチーム等)からの“信頼“が必須となる。信頼を得るためには、スキルと実績が必要である。立場によるのかもしれないが、国内では実績に重きを置かれがちだが、海外ではスキルと与えられた権限に重きが置かれているように感じる。
ビジネススキルについてはグローバル人材に向けて必要なスキルとはを参照して欲しいが、ビジネススキルのThink/Collaboration/Actionが揺らぐとなかなかチームを牽引することは難しい。これらのスキルスタックを基にステークホルダーから信用や信頼を得ることが、チームを牽引するスキルセットの第一歩となる。そして、リーダーとしてチームを牽引し続けるためには、お客様をはじめとした業務の依頼元との調整、チーム内の管理、そして自分自身のマインドセットの維持・向上を継続することが必要となってくる。
実はこれらのスキルセットや必要な能力は、実質国内の管理者やリーダー的存在のスキルセットと変わらない。しかし、各スキルや能力の濃淡には少し違いがある。例えば、グローバルではステークホルダーのバックグラウンドやモチベーションが異なるため、資本管理やメンバー管理といったマネジメントスキルより、ビジョンを掲げそのGAPを主張し続けられる人の方がリーダーとして信頼を得やすいように感じる。同様の背景から、反対意見を含む様々な意見や考えがある中でも最後までやり遂げられるタフさや、チームの活動内容を明確化するための作業スコープのIN/OUTを即時できる決断力を持った人が好まれる傾向にある気がする。
チームを牽引するときのプロジェクト(PJ)管理手法
海外は特に契約文化と言われるように、PJ管理=契約内容の尊守となるため、プロジェクトマネージャー(PM)と密に連携しながらプロジェクトを遂行することがリーダーには必要となる。日本の場合は雛型的な契約書や仕様書にて契約をし、PJ管理は別立ての作業タスクや課題管理表などで管理することが多いが、海外ではStatement Of Work (SOW)と呼ばれる作業範囲記述書/業務仕様書を契約書の一部として締結することが多い。
契約内容から、成果物を中心としたQuality/Cost/Delivery管理とリスク管理の範囲をプロジェクトマネージャーと一緒に明確化しつつ、リーダーとしてはProductivity(生産性)の向上を目指すことになるだろう。プロジェクトマネージャーは、PJ管理として契約書/仕様書/SoWに定められた通りの成果物(納品物や労働力/役務)を提供することになるが、リーダーはその一部を任されながらチーム全体で高い生産性で高品質な作業を実現できるような采配を期待されることになる。
グローバルにおいても、多くのPJではCost/Safeはプロジェクトマネージャーが担い、QualityやDeliveryは(最終決断はプロジェクトマネージャーだとしても)チームリーダーが主体的に担うことが多いように感じる。そして一番のポイントであるProductivityについては、プロジェクトマネージャーとチームリーダーの腕の見せ所で、うまく協調できると良いチームが出来上がり、高い生産性を発揮しているように感じる。
(参考)QCDPSとは- Productivity(生産性): 単位KPIあたりのCost/Delivery/Qualityのバランスを改善すること
- Scope管理: 仕様変更の受入判断や無駄作業の削除
- 人員管理: 作業内容に応じたスキルや適正の管理
- 調達管理: 外部リソースや環境構築の管理
- Quality(品質): 仕様書に沿った検査に”合格”(=瑕疵やバグがない)する成果物/役務を提供すること
- 品質計画: 生産物に対する指標値(単位ドキュメント枚数当たりのレビュー時間/コメント件数/バグ件数など)と、それを適用するプロセスの決定
- 品質実績: 検査分析に基づいた検査結果
- 品質保証: 品質計画通りに進んでいるかの監査
- Cost(コスト): 成果物/役務を遂行するために必要な人件費や物件費を契約金額に収めるように管理すること
- 予算: 人的稼働や作業のための物件費の見積もり
- 実績: 予算と実績の差分管理や、突発的事象や施策のための追加投資の管理
- Delivery(進捗管理): 契約書に定められた期間で成果物/役務を確実に完了させること
- スケジュール: 作業項目や工数、順序に基づいて決めた作業予定
- 実績: 完了した作業項目や、何らかの理由で予定通り完了しなかった作業やそれに付随する作業の再スケジュール化
- Safe(リスク管理): PJそのものの成功/失敗を左右するような契約書に書かれている禁止事項をチーム内で徹底して守り危機回避すること
- 情報漏洩
- 労働災害
- 法的リスク: 知的財産、訴訟など
- 内的リスク: スキルセットを満たした要員の確保、コスト変動要素、スケジュール変動要素など
- 外的リスク: 市場動向、政策変更、天災、景気など
プロジェクト(PJ)開始後の作業
プロジェクトが開始されると、リーダーにとって必要なことは、チーム内を含むステークホルダーにプロジェクトの進捗状況を可視化することになる。特に当初の予定に対する実績、計画外の作業の発生状況などを全体で理解できるようにしておくことは大切だろう。様々な管理ツールが世の中にはあるが、海外でも表ベースの週毎の進捗報告/共有が必要になることが多い。国内と比較すると、海外ではタスクを割り当たっていたとしても、本人が納得していないとその作業を実施しないケースも多々ある。そのため、国内でのPJ管理と比較すると“無駄作業の削除“はリーダーとして重要な作業になっている気がする。
また、海外では生産物以外の資料化を嫌う傾向が強いので、逆にスライドなどでシステム構成や開発工程などをビジュアライズして視覚的に進捗が分かるようにすると、驚き喜ばれる傾向があるように感じる。特に、プロジェクトの全体像からメインとなる作業工程やキーとなる生産物を絵にまとめると、チーム全体も他のステークホルダーも共通理解となり、無駄作業を削除するときに調整しやすくなる。
お客様/作業依頼者向けの可視化
海外ではテキストで箇条書きで進捗報告をして終わりになることが多いが、PJを確実に成功させるという意味では、日本式の方が洗練されているように感じる。進捗報告に加えポジティブな効果があったものを挙げておく。
- プロジェクトオーバービュー: 予定されていた作業が終わった時の理想的なシステム/PJ全体の構成/機能と現在の姿
- ステークホルダーが一目で分かるPJ全体の一枚絵が書けると、チーム内外から信頼を得やすい
- 特に周辺の関連PJとの関係を可視化できると、各ステークホルダーとの調整がしやすい
- また、自分自身としてもPJ全体を把握しやすい
- 全体進捗: スケジュールの予実(予定と実績)管理
- 各作業をKPI化し定量評価する文化が海外は少ないように感じるので予実分析をして優先度を柔軟に変更/判断できるようになるとPJが進みやすい
- 日々の作業
時間や日々の会議時間も定量的に分析しておくとPDCA(海外ではPDCAの文化もあまりない)を回せるのでより信頼を得やすくなる - 品質管理: PJによって異なるので正解は無いが、PDCAとして定量化できるものを定量化
- ドキュメントなどの作成であれば、ドキュメント数/レビュー密度/バグ密度などをグラフ化するとわかりやすい
- 役務系であれば日々(or週単位の)問題の問合せ件数/問題化した件数/解決件
数など - 再発防止: 問題の定性的/定量的分析と水平展開/再発防止状況
- こちらも海外ではあまり文化が無いので、しっかり文書化しておくとチーム内外での意識違いが起きにくい
- 個別トピック: 重要問題や重要作業の個別説明
- こちらはグローバルでも普通に説明があるが、例えば問題説明だとしてもシーケンスレベルでの記述はあまりないので、どのレベルでの問題説明が必要かはリーダーの裁量にかかっている気がする
社内向けの可視化 (プロジェクト改善や営業の交渉ネタ)
社内向けの報告も簡易化する傾向があるため、次のプロジェクトに活かせそうな改善ネタをうまく盛り込めるようになるとチームを牽引しやすくなる。
- 人的リソース管理: (主にプロジェクトマネージャー向けに)現在のチーム体制や重点作業ポイント
- 作業項目あたりの予定作業者数や実質作業人数など
- 実は人員が足りてない or 作業待ちで効率的に人が動けていないなどはなかなか言いにくい
- リソースとスケジュールの詳細: クリティカルパスの実態
- 予算管理: (主にプロジェクトマネージャー向けに)予算の消化状況
- 特に突発的にかかった費用や作業や各種リソース
- コミニケーション管理: 国内だと言われたルールに従う人が多いが、海外ではまともに見ていないこともあるのでコミュニケーションの失敗率は報告が必要
- 意識合わせミスの件数/ヒヤリハットの件数
- 形骸化している報告(誰も見てないレポートや質疑がない会議等)
- 各コミニケーションの準備を含む実稼働と効
果 - リスクマネジメント: 社内の課題全体像
- 残作業の不確定因子
- 計画の見直しポイントのマイルストーン
実際にはこれらの作業の中で、チームリーダーとして自分独自のノウハウを蓄積することで“実績“に繋げていくことになる。
- 経験を通した自分なりのチェックリストまとめ
- PJ開始条件、
各工程の移行/着手条件、各工程の終了条件、品質管理手法 - 人・
物・金の状況可視化方法など - チームメンバに任せる作業のギャップ可視化ノウハウ
- 現状と終了条件に向けた作業や品質のギャップ
- メンバの作業項目やテンプレート
- 不要は作業項目の削除
- 特に代替可能な項目は削除or
並行運用するならいつ削除するかの目標設定 - 関連ステークホルダーとの合意
- 関連チーム、上位層、お客様、
その他取引先など - 管理項目の見直しと最小化
- 重要なKPIの設定
- 形骸化した項目の削除
チームリーダーにとって重要なビジョンとは
リーダーは強い意志を持ったビジョンを持ち続けることで、チーム内を含む様々なステークホルダーから信用され、ポジティブなループに回っていく。そのため、自分なりのビジョンを持つということは非常に重要なこととなる。筆者の個人的な考えを含めて、ビジョンの作り方を考えてみる。
仕事の原点に戻ると、仕事とは究極的には「人の課題に対してそれを解決するような"価
一方で、ビジネスとして考えると、人には本質的にお
それらを踏まえると、通信料というのは総論で言えば下がる傾向で
日頃から自己啓発をし、関連するステークホルダーの課題をしっかりヒアリングし、PEST分析をはじめとした業界動向を見極めて、自分ありのビジョンを持つことが大切だろう。それが“日本で生活しているからこそ見つけた“ビジョンだと、グローバルでもリーダーとして信頼されていくに違いない。
(参考)その他のリーダーに必要なスキル
交渉・ネゴシエーション
リーダーの大きな仕事の一つに交渉やネゴシエーションがある。
- 攻め手: 正面から正当な窓口を経由して交渉する
- →お互いが同じモチベーションを持ち、ロジカルに説得し、相
手もロジカルに判断できるときの交渉法 - 引き手: 交換条件(バーター)の交渉
- →正攻法でうまくいかなかったときに、十分に信頼関係がある場合の交渉法
- 多用は難しく、場合によ
っては泣き落としのように感情に訴えるケースもある - 相手が大企業の場合、社内の稟議が通らず、失敗することも多い
- 搦め手: 通常とは異なるルートでの交渉であり、なるべく相手が想定してい
ないルートを利用 - → かなり広い視野での交渉となり、使えるタイミングは限られるが、
うまく使えると大体交渉は成立する
マネジメント
管理職で無くても、リーダーにはある程度のマネジメントスキルは求められる。
Stage1 予算と労務管理- チームの実労働時間が管理職が把握している時間と概ね一致しているか?
- 遅刻や早退や休
憩等でサボってないか?コンプライアンス違反はしていないか? - (プロジェクトマネージャーから指示されている)割当てられた予算に対して、PJ遂行のためにどんなものが必要か?実支出
が予算+今後の見込みが予算の範囲に収まるか?予算をオーバーし そうな時に何を切り捨てるか? - チームメンバが自チームやPJのルールを守った作業をしているか?
- 仕事のスコープからチームが生成する生産物&達成する業務
の成果を定義できるか? - その生産物or成果実現に向けた作業内容をブレイクダウン(W
BS化)できるか? - 各作業の達成状況を定量的に評価できるようなマイルストーンが
たてられるか?
- 仕事の発生したバックグラウンドや周辺PJの動向から、マイルストーンをいつ達成すべきかプロットできるか?
- 各マイルストーンまでの実現に向けて、必要なチームメンバーの
リソースの割当ててマスタースケジュールを作成し、 それをチーム内に共有/浸透できるか? - 実績がずれ始める兆候を見つけ、リスケジュールや再アサインが
できるか?
- お客様や関連組織の仕事依頼から、"自分なりの次の目標"
と"それが次のPJに繋がるロードマップ"を引けるか? - それらのビジョンやロードマップをステークホルダーに明確・簡潔な表現でインプットできるか?
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